早朝ランニングはリスクを伴う⁉
2018.6.3
こんにちは。
ランナーのみなさんはランニングをする時間帯はいつですか?
なかには早朝にランニングする方もいると思います。
本日はそんな早朝ランニングについてお話していきたいと思います。
私たちは毎日一定のリズム(概日リズム)を刻みながら生活をしています。
体温や体内のホルモンをはじめ、私たちの生体機能はこの概日リズムの影響を受けており、当然、運動パフォーマンスもこの概日リズムの影響を受けて変化します。
したがって、早朝という時間帯に行われる朝練習にも概日リズムによる何らかの効果を考える必要があるといえます。
(食事をする時間帯はいつがいいのか? も参照)
日周期と競技成績や運動パフォーマンスの関係について多くの研究が行われていますが、午前中より午後のほうが良いというのが今日の一般的な見解です(1, 2, 3, 4)。
たとえばReillyが行った水泳の実験(100mおよび400m)では、もっとも記録が悪いのは朝の6時であり、時間が経つとともに記録は向上し、もっとも記録が良いのは夜の10時と報告されています(5)。
その他の実験結果でも、筋力・パワー系など多くのスポーツ種目では、総じて午後の遅い時間帯にもっともパフォーマンスがよくなっていくとされています。
その原因として、深部体温をはじめエネルギー代謝、体内のホルモン、筋神経系機能などの概日リズムの影響であることがよく知られています。
一般に体温は起床する前の早朝に最低値を示し、就寝前の夜間に最高値に達しますが、実際多くのスポーツ種目では上記の通り体温の高い午後の遅い時間帯に良い成績が出ています。
上記のような瞬発的な運動に比べて持久的な運動パフォーマンスの実験結果は一様ではありませんが、多くの研究では早朝と夕方のパフォーマンスに差がないと報告しています(4)。
したがって、運動パフォーマンスの観点では早朝練習を積極的に推奨する理由は見当たらないということになります。
日本における15歳以上の有職男女の平日の有酸素運動の実施率を時間帯別に示したデータがあります(図1)。
このデータから、有職者は「昼休み」や「就業後」よりも「早朝」に運動している人口が多いことがわかります。
しかし多くの市民ランナーはトレーニングの目的によって時間帯を変える余裕はないと思われます。
早朝練習に取り組むランナーの中には意図して「早朝」を選んでいるのではなく、仕事の都合などで選ばざるを得ないランナーの方もいると考えられます。
また市民ランナーの中にはアスリートのように「記録向上」を目指す人もいると思いますが、「健康」のために走っている方も多いはずです。
そのため早朝練習はトレーニングとして気をつけるべきこともいくつか考えられます。
記録向上を狙う市民ランナーにとって避けては通れない高強度のトレーニングは、早朝練習では実施しにくいことが考えられます。
トレーニング強度が高くなるほど、エネルギー基質は糖質(グリコーゲン)に依存します。
そのためグリコーゲン貯蔵量が少ない状態で行う早朝練習は、グリコーゲンが十分な状態と比べて高強度のトレーニングを実施するのが困難です(6, 7)。
高強度のトレーニングを早朝練習で実施する際はその点を考慮した強度設定が必要だと考えられます。
また、早朝練習は疲労の度合いが大きくなる可能性があります。
疲れたと感じる過程には様々な要因が関わっていますが、その中の一つにグリコーゲン量の減少があげられます。
早朝練習は体内のグリコーゲン量が少ない時間帯に行うため、同じ運動量であっても自覚する疲労が大きいと考えられます。
疲労を自覚しながら運動は注意力が散漫になるため、外傷や障害のリスクが高いとの指摘がなされています(8)。
体調管理という点では疾病との関係も考えなければなりません。
グリコーゲン量が少ない状態での運動はグリコーゲン量が十分な状態と比べてリンパ球など免疫細胞の低下が大きいことが報告されています(9)。
これは、早朝練習の実施による免疫力低下のリスクを考えさせられます。
しかし早朝練習に限らず、適度な運動は免疫力を向上させる一方、度が過ぎた激しい運動は免疫力の低下につながることが知られています(10)。
(高強度トレーニングによる免疫低下には炭水化物が効果的も参照)
“適度”と“激しい”の境界を明示するのは困難ですが、早朝練習は同じ運動であっても相対的な強度が高くなります。そのため早朝練習では“適度”な運動の枠からはみ出す可能性が高くなると考えられます。
また、疾病の中には時間帯によって発作のリスクが異なるものがあります。
たとえば高血圧症は早朝に血圧が上昇する場合もあり、そのタイミングで運動をすると血管の負担が大きいため避けるべきとの指摘があります。
しかし、高血圧症の患者を対象に早朝または夕方に運動をした場合の血圧変化を比較した研究では、必ずしも早朝の運動にリスクはないと報告されています(11)。
起床直後を避け、十分な準備運動と水分補給を心掛けることでリスクを減らすことができるかもしれません。
さいごに、、、
早朝練習がすべての面で優れた唯一無二のトレーニング方法ではありませんし、万人に共通して有効なトレーニング方法ではないことを理解しておかなければなりません。
それでも、長年にわたり多くのランナーが早朝練習を実践し、かつ早朝練習を重視してきた選手が輝かしい実績を残してきたことは事実です。
この記事をみてくださったランナーのみなさんが自分自身にあったトレーニング計画を立てる際に役立てば幸いです。
本日は以上です。
ありがとうございました。
参考文献
(1)Atkinson G et al. (1996) Circadian variation in sports performance. Sports medicine. 21:292-312
(2)Cappaert TA. (1999) Time of Day Effect on Athletic Performance: An Update. J Strength Cond Res. 13:412-421
(3)Drust B et al. (2005) Circadian rhythms in sports performance-an update. Chronobiol Int. 22:21-44
(4)Chtourou H. (2013) Effect of Time-of-Day on Muscle Fatigue: A Review. J Nov Physiother. 3:160
(5)Reilly T. (1990) Human circadian rhythms and exercise. Crit Rev Biomed Eng. 18:165-180
(6)Hulston CJ et al. (2010) Raining with low muscle glycogen enhances fat metabolism in well-trained cyclists. Med Sci Sports Exerc. 42:2046-2055
(7)Yeo WK. (2008) Skeletal muscle adaptation and performance responses to once a day versus twice every second day endurance training regiments. J Appl Physiol. 105:1462-1470
(8)Gleeson M et al. (2004) Exercise, nutrition and immune function. J Sports Sci. 22:115-125
(9)Petibois C et al. (2003) Biochemical aspects of overtraining in endurance sports. Sports Med. 33: 83-94
(10)Nieman DC. (1994) Exercise, upper respiratory tract infection, and the immune system. Med Sci Sports Exerc. 26:128-139.
(11)Jimenez AH et al. (1994) Hemodynamic and hemostatic responses to morning and evening exertion in systemic hypertension and implications for triggering of acute cardiovascular disease. Am J Cardiol. 74:253-257